Narcisse

フランスの彫刻家、ジャン=ピエール・コルト(Jean-Pierre Cortot/1787-1843)による1818年の作品「Narcisse」
フランスのアンジェ美術館で展示されている大理石像です。
英語ではNarcissusと書く、ギリシア神話に登場するナルキッソスという名の美少年。
泉に映った自分の姿を見て自分に恋をしてしまった少年で、自己愛を意味する「ナルシスト」の語源でもあります。
泉の片隅に座り込み、自分の姿を眺めているナルキッソス君。
自己中だったり自分の能力を過信するいわゆる「うぬぼれ」の人ならごまんといますが、自分自身に恋をするというのはやはり特殊な感情なのでしょう。
しかしナルキッソス君がそうなったのにはワケがありました。
ある日、エコーという名の森の精霊が彼に恋をします。
しかし彼はその求愛を冷たくあしらい、エコーを見捨てました。
それを知った神メネシスは怒り、ナルキッソスに他人を愛せなくなる呪いをかけたのでした。
メネシスによって泉へと呼び寄せられたナルキッソスは、水を飲もうと水面に近づき、そこに映る美少年(自分自身)に恋をしてしまいます。
そしてそこからいっときも離れることができなくなり、やがてやせ細って死んでしまいました。
ナルキッソスの亡き骸のあとにはスイセンの花が咲いたと言われています。
スイセンを英語でNarcissus(ナルシスまたはナーシサス)と言うのはそのためです。

1枚目の画像も構図的にはなかなか良いのですが、やはりこの作品の良さは足のほうから眺めてこそだと思います。
顔だけでなく体全体が美しい子ですね。
この像の作者であるジャン=ピエール・コルトはフランスの首都パリ生まれの彫刻家。
13歳のときに彫刻家のチャールズ・アントワーヌ・ブリドンの講座に出席し、その後は彫刻家のもとで働きながら古代彫像の制作などに携わりました。
1809年にパリのエコール・デ・ボザールにて彼の作品がグランプリを受賞。
その後はイタリアのローマに移住し、その頃同じくローマに滞在していた画家のジャン・オーギュスト・ドミニク・アングルの友人となりました。
1819年、パリに戻った彼はサロンにてこのナルキッソスの大理石像を発表します。
この像は人々から高い評価を得て、彼の名声を確実に高めました。
その後1840年まで作品を発表し続け、その間1825年にはサロンの所長に選出され、さらにエコール・デ・ボザールの教授となりました。
ジャン=ピエール・コルトは18世紀後半のフランス芸術とグレコローマンの伝統を継承した、新古典主義の流れを汲む彫刻家でした。
生涯にわたりロマンチックな表現を貫き、数々の名作を残した彼は、1843年に55歳の若さでこの世を去りました。
画像出典:ウィキメディア・コモンズ
File:AngersMBA 14.jpg
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
YouTubeより
「平沢 進 - ナーシサス次元から来た人」
♪ 香れよ胸の水仙 尽きる命をなだめて
吹けよ街に 一陣の風 眠る我が子が癒えるまで...


ジャン=ピエール・コルト作「Narcisse」と、それと同じポーズの人間との比較。
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