Lupercalia

イギリスの彫刻家、コンラッド・ドレスラー(Conrad Dressler/1856-1940)による1907年の作品「Lupercalia」
イギリスのリバプールにある「ウォーカー・アート・ギャラリー」で展示されているブロンズ像です。
少年が笑みを浮かべながらムチを振るっています。
表情を見る限りはとても楽しそうですね。
この像が何を意味しているのかは後述するとして、まずは作者の紹介から。
作者のコンラッド・ドレスラーはロンドン生まれの彫刻家。
ロンドンの国立美術大学「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート」にて彫刻を学び、1894年にイギリスのバーケンヘッドにDella Robbia Potteryというセラミック工場を設立。
その後は建築用タイルや壁パネルの製造会社、Medmenham Potteryを設立しました。
イギリスの陶器産業に貢献した人物ですが、この彫像を含めいくつかのブロンズ作品も残しています。


画像出典:ketrin1407
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
さて、ここで唐突に「バレンタイン・デー」の話を・・・。
日本ではバレンタイン・デーは女性が男性にチョコレートを贈る日ということで知られていますが、これは単にチョコメーカーの広告戦略から始まったに過ぎません。
本来のバレンタイン・デーは、キリスト教の司祭であるウァレンティヌス(バレンタイン)が処刑された日とされています。
古代ローマ帝国の皇帝クラウディウス2世は、兵士の士気が下がるのを理由に兵士の結婚を禁じていました。
しかし司祭であるウァレンティヌスは兵士のために秘密裏に結婚式を執りおこない、そのため捕らえられ処刑されてしまったのでした。
ウァレンティヌスは当時ローマ市内で毎年おこなわれていた祭り「ルペルカリア祭」に捧げる生贄とされました。
兵士の結婚のために殉教したウァレンティヌス司祭のこのエピソードから、彼が処刑された2月14日(ルペルカリア祭の前日)を男女の愛の誓いの日とし、バレンタイン・デーと呼ばれるようになったと言われています。
この話がこの彫像とどう関係あるのかと言いますと、このムチを振るっている少年の姿こそ、ウァレンティヌス司祭が生贄として捧げられた「ルペルカリア祭」の様子を表したものなのです。
タイトルもズバリ「Lupercalia」(ルペルカリア)となっていますね。
ではその「ルペルカリア祭」とはどんな祭りだったのでしょうか?
ルペルカリア祭は古代ローマ時代の牧歌的な年次祭であり、ローマ神話の神「ファウヌス」を崇める祭りでした。
ファウヌスはギリシア神話の神「パン」に相当する農牧の神です。
ファウヌス(パン)は山羊のような半人半獣の姿をしており、山羊が多産のシンボルであったことから、陰茎をそそり立たせた性豪の神としても有名です。


【街に設置されたファウヌス(パン)の彫像と子供たち】
Copyright : Ole Morten Eyra
ルペルカリア祭は古代ローマで毎年2月15日におこなわれていた男女の祭りで、狼の祭典とも言われていました。
裸体の神事青年たちが村の中を走り回りながら、群衆の女性たちに向かってヤギの皮でできたムチを振るうというものでした。
ただし暴力的なものではなく、柔らかいヤギの皮ですから当たったとしてもそんなに痛くはなかったのでしょう。
裸でムチを振るう役は下層階級の者はできず、都市部の上層階級の男性がおこなっていました。
そのためか女性たちは打ってもらいたくて自ら背中を剥き出しにしていたそうです。
豊作と多産を祈願する祭りなので、日本で言えば神社でおこなわれる五穀豊穣・子宝祈願の祭りに近いですね。
日本ではさすがに観客に鞭打つことはありませんが、水をかけたり墨を塗ったりする祭りはあるので、日本とローマの神話はどこか似ているところがあるのかもしれません。


コンラッド・ドレスラー作「Lupercalia」と、それと同じポーズの人間との比較。
- 関連記事
-
-
鯔背な少年 2015/04/29
-
Le Livre de la Jungle 2017/12/05
-
HS Johanneskyrkan Tammerfors 2016/11/04
-