
フランスで出版されている「Encyclopédie de la vie sexuelle」という書籍。
日本語に訳すと「性の百科事典」となるので若い夫婦のためのHow-To本かと思ってしまいますが、実際は子供向けの性教育図鑑であり、子供たちが正しい性の知識を身につけるための児童図書です。
同じタイトルで4〜6歳向け、7〜9歳向け、10〜13歳向け、14〜16歳向けの4種類が発売されており、上の画像は7〜9歳向けの本の内容の一部です。
(画像出典:2ememain.be)
4人の医師によって書かれたこれらの本は、人間の成り立ち、仕組み、生殖、出産、避妊などについて丁寧にわかりやすく解説しており、非常にデリケートな問題である性について親と子の対話を促進することにも役立っています。
出版社は1826年から続くフランスの老舗出版社「Hachette Livre」のユース部門である「Hachette Jeunesse」
この本は1970年代から数年置きに内容を見直しながら出版されてきました。
初期の頃は性そのものよりも生殖に重点が置かれ、同性愛に関する記述はなく、反対に現在売られている本では同性愛も扱っているなど、社会の変化に合わせて内容も変化しています。
しかしそれよりも大きな変化は、年代ごとの表紙の移り変わりです。
これはフランスに限らず日本でもよく見る傾向ですが・・・まぁとにかく見ていきましょう。
【1973年】

これは1973年に出版された「Encyclopédie de la vie sexuelle」の表紙。
左が7〜9歳向け、右が10〜13歳向けです。
画像出典:
Musée national de l'Éducationクリエイティブ・コモンズ・ライセンス読者と同年代の子供の写真を使うことで、子供たちに自分に関係ある内容だと理解させ、股間が見えている写真であることで人間の性に関する内容だと理解させ、そして男女のペアであることで将来の結婚に繋がる内容だと理解させる。
性教育の教本としては、もっともわかりやすい表紙ではないでしょうか。
当時は私も左側の本の子と同じくらいの歳でした。
もしこの本の日本語版が出ていたら、日本の家庭でも1970年代の段階で正しい性教育ができていたかもしれませんね。
Amazon.frより
Encyclopédie de la vie sexuelle. de la physiologie à la psychologie. 7/9 ansCartonné – 1973Encyclopédie De La Vie Sexuelle De La Physiologie à La Psychologie 10 / 13 Ans . 1973【1980年】

これは「Encyclopédie de la vie sexuelle」の1980年版の表紙。
左が7〜9歳向け、右が10〜13歳向け。
7〜9歳向けは遊んでいるシーンになり、10〜13歳向けは裸で身を寄せている写真になりました。
10〜13歳といえば男女とも生殖が可能になる年齢ですから、横になって肌を密着させている写真は性行為推奨とも受け取られかねないのですが、この表紙は上半身のみの写真にすることでそれを防いでいます。
その上で、幸せそうな顔としっかり繋いだ手によって、テーマが性教育であることを示しています。
全身を見せる写真ではなくなったのは、この頃の性教育が医学的な教えから道徳的な教えへと移り変わる時期だったからかもしれません。
つまり生殖の仕組みよりも、愛情を伴った性についてシッカリに教えようということではないでしょうか。
Amazon.frより
Encyclopédie de la vie sexuelle de la physiologie à la psychologie 7/9 ans Reliure inconnue – 1980Encyclopedie de la vie sexuelle de la physiologie a la psychologie 10/13 ans【1991年】

1990年代に入ると表紙はこうなりました。
仲の良さそうな男女の笑顔写真ですが、服を着ています。
ポートレイト写真集かと思ってしまいそうなデザインですね。
もはや表紙だけでは性教育の本であることがわからなくなってしまいました。
本にとって表紙は大切な顔です。
表紙だけで何の本なのか伝わらなくては意味がありません。
しかも百科事典を銘打っているのですから、記念写真のようなツーショットには違和感を感じてしまいます。
Amazon.frより
Encyclopédie de la vie sexuelle des 7-9 ans / Verdoux, C/ Cohen, J / Réf: 29170Relié – 1991Encyclopédie de la vie sexuelle 10-13 ans Relié – 1992でもこれはまだ良いほうかもしれません・・・
【1994年】

これは1994年版の表紙。
同じく着衣のポートレイトですが、なんと写真ではなくなってしまいました。
綺麗な肖像画だとは思いますが、イラストにした理由はなんだったんでしょうか?
子供や親にとってはこのほうが買いやすいんでしょうか?
「水彩画入門」というタイトルのほうが似合いそうですね。
Amazon.frより
Encyclopédie de la vie sexuelle : 7-9 ans Poche – 1 février 1994Encyclopédie de la vie sexuelle : 10-13 ans Broché – 11 mars 1998さてこの「Encyclopédie de la vie sexuelle」という本、その後どうなったかと言いますと・・・
【2003年】
こんな表紙になりました。(^^;)
随分とまぁ砕けたというか、マンガチックになりましたね。
気軽に買えるようにはなったかもしれませんが、百科事典としての威厳はなくなってしまいました。
現在は他の出版社から同じようなタイトルの本が出ていますが、やはりどれもイラストの表紙です。
これはフランスに限ったことではなく日本でも同じ。
19XX年には表紙がヌード写真だった本が、20XX年に再発行されたらイラストになった、ということはよくあることです。
性がテーマであるとはいえ、教育用の本までマンガチックに変える必要はあるのでしょうか?
実感できる、共感できるということが性教育でのニーズなはずなのに。
今の子供たちにどちらの本がわかりやすいかと問えば、たぶん現在売られている本を指すでしょう。
しかし写真と漫画風なイラストのどちらがより「正確に」理解できるかといえば、写真でしょうね。
性教育のように人の命に関わる教育の場合は、オブラートに包むような伝え方はするべきではないと思うのですが、皆さんはいかがお考えでしょうか?
書籍「Encyclopédie de la vie sexuelle」の1973年版の内容に関しては、この動画で見ることができます。
1978年に放映された映像で、オフィシャルの「Institut National de l'Audiovisuel」がYouTubeで公開しています。
Les livres d'éducation sexuelle pour les enfants - Archive INA
Copyright : Ina Styles
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