
イギリス出身のアメリカの写真家、エドワード・マイブリッジ(Eadweard Muybridge/1830-1904)による1884年の・・・これは作品と言って良いのでしょうか、学術的な記録写真です。
人間の動きの形態を記録するために連続撮影したもので、二人の少年がモデルとなっています。
顔も体形もよく似ているので双子だと思いますが、発育を見るかぎり14歳くらいでしょうか。
作者のマイブリッジはイギリスで生まれて二十歳でアメリカに移住した、写真研究の先駆的な写真家です。
主に動物の走る様子を連続撮影した写真家として知られており、この少年たちの写真は「馬跳び」「歩き」「走り」の3種類が存在しています。

画像出典:ウィキメディア・コモンズ
Category:Nude boy jumping over a boy's backCategory:Two nude boys walkingCategory:Two nude boys runningライセンス:パブリックドメイン
ひと言で連続撮影とは言っても、当時は写真を連続で撮影するのは非常に困難であり、ましてや秒数コマの連写などは到底無理な時代でした。
しかしマイブリッジは5年の歳月と5,000ドルを費やし、それを可能にします。
きっかけは1872年、元カリフォルニア州知事のリーランド・スタンフォードからの撮影依頼でした。
「馬は走っているとき、4本の脚すべてが地面を離れる瞬間があるのか?ないのか?」
元知事はこのことで友人と賭けをしており(元知事はあると主張していました)それを証明するためにマイブリッジに写真による判定を依頼したのでした。
しかし高速で移動する馬の一瞬を捉えるには、大口径のレンズと高感度の感光材料が必要です。
当時は露光に数秒間もかかるのが当たり前でしたので、まずは新しい感光材料の開発が大前提。
彼は独自に研究をおこない高感度の感光材を開発し、電気技師のジョン・アイザクスとも協力して専用の写真装置を製作します。
そして1877年、彼は走る馬の一瞬を捉えたみごとな写真を発表しました。
この写真により、この議論は「ある」という結論で終止符が打たれたのでした。
翌年の1878年にはこの装置を12台並べ、疾走する馬の連続撮影にも成功します。
それまで主流だったゴムやスプリングのシャッターを電気式のものに改良することで、なんと1/1000秒〜1/6000秒もの高速シャッターが得られたそうです。
これらの写真はゾエトロープと呼ばれる「回転のぞき絵」の装置と組み合わせることで動く映像として楽しむことができ、人々から喝采を浴びました。
発明王トーマス・エジソンはこれに大いに触発され、のちに撮影機「キネトグラフ」と再生機「キネトスコープ」を発明しています。
これがその後、映像をスクリーンに投影することができる「シネマトグラフ」の発明につながり、この世に「映画」が誕生したというわけです。

この写真は同じくエドワード・マイブリッジによるもので、連続のショットを一枚の写真に感光させたものです。
運動力学ではお馴染みの写真ですね。
今でこそ誰でも簡単に連写や動画撮影を楽しめる時代になりましたが、カメラが登場して間もない頃は、物の動きを記録・分析することは大変な労力が必要でした。
しかしマイブリッジの功績によりそれが可能になると、様々な分野の研究にも拍車がかかりました。
その最たるものが映画でしたが、それ以外にも上の写真のような運動力学や医学への応用であったり、また美術の世界でも動物の走る姿を正確に描画できるようになりました。
彼の作品を収録した本は日本の書店でも購入できます。
アニメーターが作画の参考にすることもあるそうですよ。
【訂正】
上の文章で、最後の写真を「同じくエドワード・マイブリッジによる...」とご紹介しましたが、すみません間違っておりました。
最後の写真はアメリカの写真家、トマス・エイキンズ(Thomas Eakins/1844-1916)によるものでした。
訂正いたします。
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