A Mother Love

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    ドイツの画家、ロヴィス・コリント(1858-1925)による1911年の作品「A Mother Love」

    タイトルは「母の愛」または「母性愛」と訳せますが、窓辺で母親が息子を愛撫しているシーンです。
    沐浴しているところなのか、息子の愛らしい姿を見て思わず引き寄せたのでしょう。
    親子の愛情を感じる作品です。

    作者のロヴィス・コリントは19世紀から20世紀にかけて活躍したドイツの画家・版画家。
    1858年に東プロイセンのタピアウ(現在のロシアのグヴァルジェイスク)にて、皮革工場と農場を営む両親のもとに生まれたコリントは、8歳から15歳までケーニヒスベルクの叔母の家で暮らしました。

    しかし12歳の時に戦争が勃発し、15歳のときに母親が他界。
    それからは父親の農場で暮らしましたが、この頃から画家になりたいと強く望むようになりました。
    彼にとって絵を描くことは辛い生活からの逃避行であり、新たな人生を始めたいという願いでもありました。

    1876年からケーニヒスベルクのアカデミーで絵画を学び始め、1880年に教師の推薦でミュンヘン美術アカデミーに入学すると、彼はその才能をさらに開花させます。
    初期の作品は非常に自然主義的でしたが、その後は次第に表現主義的な特質を取り入れ、活気あふれる肖像画や風景画を描き始めます。

    彼は1900年にベルリンに移り住み、1902年に女性のための絵画学校を開設。
    最初の生徒であるシャーロット・ベレンデと結婚し、二人の子供をもうけてからは家庭生活が彼の作品の主要なテーマとなりました。
    1908年には「Das Erlernen der Malerei」という美術史に関する書籍も出版しています。

    しかし1911年12月、彼は脳卒中により左半身麻痺という悲劇に見舞われます。
    その後も妻の助けを借りて右手のみで絵を描き続け、1925年にはバイエルン芸術アカデミーの名誉会員となりましたが、同年7月17日に肺炎により亡くなりました。

    彼の作品にはヌード画が多いのですが、そのどれもが家族の優しさや温もりを感じさせるものばかり。
    幼少期に親元を離され15歳で母親を亡くしたコリントは、亡き母への愛情を絵画という形で表現していたのでしょう。
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    Tigah, the Balinese Goddess

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    イタリアの画家、ロムアルド・ロカテッリ(1905-1943?)による1940年の作品「Tigah, the Balinese Goddess」

    赤い髪飾りをつけた少女が大きな布を広げてこちらを見て微笑んでいます。
    模様が描かれているので装飾用の布でしょうか?
    グリコのポーズが決まってますね。
    なんとなく幸せな気分になる作品です。

    作者のロカテッリは1905年、3世代続く芸術家の家に生まれました。
    兄弟は父親とともに教会の装飾画の仕事に従事しており、ロカテッリも学校で応用芸術を学びました。

    ある日父親が教会での仕事中に足場から落下して怪我を負い、彼も働くことを余儀なくされました。
    やがて13歳の彼の絵は批評家の目に止まることとなり、その後1926年、病気に苦しむ父親の姿を描いた作品「Il Dolore(痛み)」が高く評価され、彼は若くして大いなる名声を得ました。

    その後ローマに移住すると、サヴォワのウンベルト皇太子から肖像画を依頼されたり、マルグッタ通りに出したスタジオが繁盛するなど成功を収めていましたが、旅をして見聞を広めたいという欲求にかられ、1939年にインドネシアへと旅立ちます。

    彼は妻とともにインドネシアのバリ島に移住し、デンパサールにスタジオを設立しました。
    そこで描き上げた絵画のひとつが、バリ島の女神をモチーフとしたこの絵です。
    模様入りの生地の前にヌードモデルを配したこの作品は、彼の名声をさらに押し上げました。

    その後アメリカのニューヨークで作品を出展するまでになったロカテッリでしたが・・・
    1943年2月24日、彼はフィリピンのマニラ北部で鳥を狩りに出かけたまま行方不明となってしまいます。

    当時のマニラは日本軍のフィリピン進攻によって占領されており、日本軍に敵対するゲリラ活動も活発になっていました。
    それらに巻き込まれたのではないかという話もあります。
    彼の失踪は謎が多く、遺体は現在も発見されていません。
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    Standing Nude Ephebe With Shield and Staff

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    オランダの画家、エルンスト・ヴィトカンプ(1854-1897)による1877年の作品「Standing Nude Ephebe With Shield and Staff」

    タイトルは日本語に訳すと「盾と杖を持つ、立っている裸のエフェベ」となります。
    エフェベとは青年という意味もありますが、古代ギリシアにて軍事訓練を受けていた17〜18歳くらいの男性のこと。
    この絵は17歳にしては体の中心部が幼く見えますが、古い絵画や彫刻ではよくあることです。

    作者のエルンスト・ヴィトカンプはオランダの首都アムステルダム生まれの画家。
    地元の美術学校で絵を学んだ後、ベルギー、フランス、ドイツを旅して技術を磨き、1882年には若いアーティストに与えられる賞、Willink van Collen賞を受賞しています。

    彼はアムステルダムのビジュアルアーティスト団体、Society Arti et Amicitiaeの役員であり、フォーダー博物館の責任者でもありました。
    しかし残念なことに、43歳の若さでこの世を去っています。


    さて彼が描いたこのエフェベの絵、最初に見たときはちゃぶ台を立てているのかと思いましたが(んなわけない!)盾だったんですね。
    右手に持っている杖も武器として使用するものだそうです。

    古代ギリシアの国々、とくに「スパルタ」と呼ばれる都市国家では、屈強な兵士を育てるために日夜厳しい軍事訓練がおこなわれていました。

    スパルタの少年は7歳になると強制的に親元から離され、軍の施設で規律の厳しい集団生活を課せられます。
    軍事訓練は下着姿に裸足でおこなわれ、これはスパルタの法律家リュクルゴスが「裸足で訓練をおこなえばより強靭な足となり、速く走れるようになる」と考えたからだそうです。

    食事は必要最小限の量しか与えず、これもリュクルゴスが「空腹に慣れさせれば戦闘時に欠食しても長時間持ち堪えられるようになる」と考えたからです。
    また従順にさせるため、反抗的な子や規律を破った子には鞭打ちなどの懲罰を与えていました。

    12歳になると下着を制限され、全裸での生活を基本とされます。
    幼い子が下着姿なのは粗相(そそう)をするからかもしれませんが、12歳から裸にさせるのにはどんな理由があるのでしょうか?逃走させないため?
    祭りのときはみな裸で踊らされたそうです。

    成長期に十分な栄養を与えず、思春期に裸で生活させるというのは少年たちの人格を無視した酷い話ですが、それだけ戦闘に特化した国だったということでしょうか。
    上の絵を見て17歳にしては幼く見えると言いましたが、もしかしたら当時のスパルタの少年はこの過酷な生活のため、実際に発育が遅かったのかもしれませんね。

    スパルタの軍事訓練はあまりの厳しさで有名になり、その名は現代も「スパルタ教育」という言葉で残っています。
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    隠せばOK? - 3【タオル掛け編】

    「神話の登場人物だから全裸な、ただし股間だけは隠してくれよ」

    こんな制作依頼をされたら、彫刻家はとても悩むでしょうね。

    何故なら以前の記事で述べたとおり、何かを貼り付ければ不自然だし、神話のキャラがパンツを穿いていたらなおさら不自然。
    絵なら前景を重ねて見えなくすることもできますが、彫像はそうもいきません。

    そこで多くの彫刻家は、ふわりと舞う布が股間をさりげなく隠しているという、なんともファンタジックな彫像を作るわけです。
    昔から絵画でもよくある手法ですね。

    psyche_et_lamour.jpg

    たとえばこれはフランスの画家、ウィリアム・アドルフ・ブグロー(1825-1905)による1889年の作品「Psyche et L'Amour」
    青い布によってクピドの股間だけが都合よく隠れています。
    男性器を隠すか隠さないかは作者にもよりますが、ブグローは概ね、幼児以外は隠す傾向にあったようです。

    画像出典:ウィキメディア・コモンズ
    File:Psyche et LAmour.jpg
    ライセンス:パブリックドメイン


    さて本題の彫像の話に戻りましょう。


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    これはフランスの彫刻家、アンリ・ペインテ(1845-1912)による1888年の作品「Orphee endormant Cerbere」
    ギリシア神話に登場する吟遊詩人、オルフェウスの像です。
    左がフランスのカンブレー市の公園に設置されているブロンズ像で、右はたぶん置物ですね。

    元々は全裸であるこの作品も、レプリカではほとんどが布で股間を隠した姿となっています。
    インテリアとしては隠したほうが良いという判断でしょう。

    しかしこのレプリカを見て、ある種の違和感を感じませんか?

    そう、いくら男性と言えども、通常このように布が引っ掛かることはないんです。
    布が掛かるということは、すなわち大事なものが上向きになっているということです。
    タオルフックのように。

    towelhook.jpg
    【タオルフック】(画像出典:Amazon.co.jp)


    「ええっ?真面目な彫像なのに!?」
    もちろん見えてはいませんが、見えないがゆえに確かめようもありません。

    このようなタオル掛け状態の彫像は他にもいくつかありました。


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    これはフィンランドの彫刻家、ウォルター・ランバーグ(1838-1920)による天使像。
    左は首都ヘルシンキの街の広場に設置されているオリジナルで、右は墓地に設置されているレプリカ。
    見事にタオル掛けになっていますね。

    「純真な天使がそのような状態になるはずがない!」
    そう思う人の気持ちもわかりますが、布が引っ掛かるということはそういうことです。


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    これは左がフランスの彫刻家、ユージン・マリトン(1857-1933)による1894年の作品「Le Zéphyr」
    ギリシア神話に登場する西風の神ゼピュロスの像で、布は掛かっているというよりも巻き付いているといった感じですね。
    西風の神はこういうことも自由自在なのでしょう。

    右はフランスの彫刻家、ジュールス・イサイドア・ラフランス(1841-1881)による1873年の作品「Saint Jean-Baptiste enfant」
    画像出典:Footsteps - Jotaro's Travels

    こちらは10歳くらいの少年に見えますが、子供ならなおさら通常の状態で引っ掛かることはありません。
    しかも軽い布ではなさそうだし、そうとう元気な子ですね。


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    これは左がフランスの彫刻家、オーガスティン・モロー・ヴァウティア(1831-1893)による1875年の作品「Cupid」
    アメリカのロサンゼルス郡立美術館が所蔵しています。
    そして右はフランスの彫刻家、オーギュスト・モロー(1834-1917)による作品「Cupid holding an Arrow」

    どちらもクピドの像で、作者の名前がどちらもモロー。
    でも股間はモロではなく、かろうじて隠れています。

    左は「見て見て!リボンが掛かってるよ!」と言っているようで、右は「どうだい!矢の重さにも耐えられるぜ!」と言っているような・・・言ってないですね。(^^;)


    【まとめ】

    今回はちょっとオフザケ気味でしたが、3回に分けて「裸像の股間は隠したほうが良いのか?」について考察してきました。
    結論としては「隠さないほうがずっと良い!」

    カップを取り付けた姿は不真面目に見えるし、パンツを穿かせたレプリカを作っても不自然なだけだし、布が掛かっていればそういう状態であるようなイメージを与えてしまう・・・。
    結局のところ裸像は、ありのままの姿が最も健全であるということです。

    一番最初の島根県の公園の話に戻りますが、ダビデ像にパンツなんか穿かせたら、それこそ「教育上悪い」下品な公園になっちゃいますよ。


    関連記事:隠せばOK? - 1【カップ編】
    関連記事:隠せばOK? - 2【パンツ編】
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    日米ロインクロス

    fundo001.jpg america_indian01.jpg

    ロインクロス(Loincloth)とは古代から存在する伝統的な衣服の一種で、長い布を使った腰布・腰衣のことです。
    日本の褌(ふんどし)もこれに含まれます。

    世界各地で見られますが国や地域ごとに装着方法に違いがあり、日本の褌やインドのランゴータのように股下に通して固定するタイプは労働者の動きやすさを考慮して腰巻タイプから派生したと言われています。

    画像出典:ウィキメディア・コモンズ
    File:Fundo001.jpg
    クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

    博多祇園子ども山笠 2002-002

    平岡八幡宮 祭典 烏相撲 2003 池ノ上 少年裸祭 003
    Copyright : Yozo Sakaki
    (Flickrのシェア機能を使って紹介しています)

    現代の日本では普段着としての利用はほとんどありませんが、祭り等の神事で正装とすることは多く、この伝統は今も受け継がれています。

    上の画像は子供が参加する祭りの一例で、上から順番に福岡県の「博多祇園山笠」、 京都府の「平岡八幡宮例祭」「上賀茂神社での烏相撲」、岐阜県の「池ノ上みそぎ祭」です。

    見てわかるように、それぞれ褌の形が違います。
    日本の褌には「六尺」「越中」「締め込み」「もっこ」など多様なタイプがあり、博多山笠では締め込み、烏相撲では六尺褌、池ノ上みそぎ祭では越中褌が正装となっています。

    また、現代ではあまり馴染みのないタイプですが、日本にはかつて「黒猫褌」という子供用の褌があったそうです。
    昭和初期に登場し、戦前の水泳の授業などで水着として使われていたもので、生地が黒色であったため黒猫の愛称で呼ばれていました。
    昭和30年頃までは幼児〜小学生の水着として全国で採用されていたそうです。

    Googleの画像検索で「黒猫褌 子供」を検索


    anschutz_thomas_p_indians_on_the_ohio.jpg

    アメリカにも褌、つまりロインクロスは先祖の時代から存在し、現代でも普段着としている地域もあります。

    アメリカ大陸における先祖といえばもちろんアメリカ先住民を指しますが、昔はコロンブスの誤認をそのまま使い「インディアン」と呼んでいました。
    ラテンアメリカの人々をインディオとも言いますね。

    しかしこれらの呼び名は本来「インドの人」という意味なので、現在ではネイティブ・アメリカン(またはアメリカ・インディアン)と呼ぶのが一般的なようです。

    上の画像はアメリカの画家、トーマス・ポロック・アンシュツ(1851-1912)による1907年の作品「Indians on the Ohio」

    画像出典:ウィキメディア・コモンズ
    File:Anschutz Thomas P Indians on the Ohio.jpg
    ライセンス:パブリックドメイン


    america_indian02.jpg america_indian03.jpg

    先祖を崇める祭りやイベントはもちろんアメリカにもあり、参加者がインディアンに扮することもあります。
    白人によって作られたステレオタイプのイメージもありますが、大体において共通しているのが、頭に鳥の羽を飾り、軽装の場合はロインクロスを着用しているところ。

    上の画像はインディアンに関連したイベントの様子です。
    日本の褌とはかなり違いますね。
    素材は皮で、巻くというよりは穿くといった感じでしょうか?

    子供たちがインディアンに扮するイベントは夏休みのサマーキャンプにも多いようです。
    サマーキャンプといえば体験によって学問や道徳を学べる行事ですが、昔の文化を重んじるという意味では日本の祭りとの共通点もありそうです。

    インディアンの教えは現代のアメリカにも息づいているでしょうし、サマーキャンプとの相性も良いのかもしれませんね。

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    summercamp_indian03.jpg summercamp_indian04.jpg

    こちらのロインクロスは布製。
    前に垂らすところは日本の越中褌に似ていますが、後ろにも垂らすのは日本の褌には見られないタイプですね。
    形はのれんの付いたヒモ水着といった感じで、こちらのほうが着脱はしやすそうです。


    「肖る」(あやかる)という言葉があります。
    他人に憧れ、自分もその人のようになりたいと思う、あるいはそうなるという意味。
    先人を尊ぶことはとても大切なことであり、そのために格好から入るというのもひとつの方法です。

    どの国も子供たちへの伝統文化の引き継ぎには苦労していることでしょう。
    時代に合わせて姿を変えることもときには必要かもしれませんが、あえて変えないということも、歴史の深さを学ぶためには大切なことです。
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    作者不詳の絵画作品

    日々アート作品を眺めていると、作者名がUnknown(アンノウン)となっている作品も意外と多いことに気付かされます。
    つまり作者不詳。
    詠み人知らずならぬ描き人知らず。
    広く知られていないだけかもしれないので、もしご存知の方がおられましたらぜひ情報提供よろしくお願いします。

    unknown_painter.jpg

    そんな作品の中で最近心惹かれたのがこの絵。
    大胆に描きなぐったようなタッチの、なんとも不思議な魅力の絵画です。

    画家が工房で絵を描いているシーンですね。
    中央に赤いマフラーをした画家がいて、そのすぐ前にはポーズをとる裸の女性がいます。
    しかしよく見るともうひとり、右端にこの様子を覗いている人物が・・・。

    画家とモデルはカメラ目線というか、こちらを見ていてまるで記念撮影のような和やかさですが、物陰から覗いている人物によって不穏な空気も漂わせています。

    ライバルがこの画家の仕事ぶりを偵察に来たのか?
    それともモデルとの関係を危惧した妻が旦那を見張っているのか?

    いろいろと考えさせられますが、登場人物が子供にも見えるので・・・

    『画家の卵であるA君はクラスメイトのC子ちゃんに絵のモデルになってほしいと頼み込みました。最初は渋っていたC子ちゃんでしたがA君の巧みな話術で今ではすっかりプロ気分。同じクラスのB君はその様子を見て自分も画家になりたいと思うのでした...』

    なぁんて勝手なストーリーも浮かんできます。
    近付いて見たときと離れて見たときで印象が変わり、目を細めると新たな発見もありそうな面白い作品ですね。
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    キューピッドの弓矢

    「天使」とはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖典や伝承に登場する「神の使い」です。
    元々は目には見えない霊的な存在とされていましたが、近世以降のローマ神話では青年や少年、とくに幼い男の子の姿として伝承されるようになりました。

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    「The Birth of Venus」1863年
    アレクサンドル・カバネル(1823-1889/フランス)
    File:Alexandre Cabanel - The Birth of Venus - Google Art Project 2.jpg
    ライセンス:パブリックドメイン


    この「天使」と混同されやすいものに「キューピッド」があります。
    キューピッドとはローマ神話に登場する愛の神クピド(クピードー)の英語読み。
    ラテン語でアモル(アモール)とも呼ばれ、ギリシア神話の愛の神エロースと同一視されています。

    神の使いである「天使」と、愛の神である「キューピッド」
    パッと見てその違いがわかりますか?

    どちらも背中に翼のある裸の子なので、姿から判断するのは難しいですね。
    「愛の天使キューピッド」というどっちつかずの言葉もあります。

    大まかな違いとしては、弓矢を持っているかどうかで判断できます。
    たとえば企業の商標の場合、「森永製菓」のエンゼルマークはその名のとおり天使です。(弓矢を持っていない)
    フラワーギフトの「花キューピット」のロゴマークはキューピッドです。(弓矢を持っている)

    食品会社の「キユーピー」のイラストは、名前からするとキューピッドのはずですが弓矢は持っていません。
    これは米国のイラストレーター「ローズ・オニール」が1909年に発表した「キューピー」というキャラクターを採用しているからです。
    しかしこのキューピー自体はローマ神話のクピドをモチーフにしています。

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    ローズ・オニールのイラストをもとに製作されたキューピー人形(1912年)
    File:German-bisque-kewpies.png
    クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

    その他にも、恋愛・結婚関連の企業がパンフレット等にキューピッドの絵柄を取り入れることも少なくないですね。


    さてそのキューピッドが持っている弓矢ですが、その矢には2種類あり、黄金の矢で射られた者は激しい愛欲に取り憑かれ、鉛の矢で射られた者は恋愛を嫌悪するようになると言われています。

    必ずしもラブラブになるわけではなく、愛するか嫌悪するかの判断はまさにキューピッドの気まぐれなのですが、なぜか現代では愛を成就させてくれる恋愛の象徴として広く親しまれています。
    これも見た目の可愛らしさがそうさせたのでしょう。

    こうして人々に好まれてきた愛の神だからこそ、これまでに数多くの絵画、彫刻、写真作品が作られました。


    【絵画】

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    左はイタリアの画家、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)による1601年の作品「Amor Vincit Omnia」
    右はドイツの画家、フリードリヒ・バリー(1763-1823)による1810年の作品「Zegevierende Amor」

    カラヴァッジョの作品は周りに物が散乱し、バリーの作品は折れ曲がった矢が散らばっています。
    どちらも現代のキューピッドのイメージとはだいぶ違いますね。

    現代のイメージに近い、非常に可愛らしいキューピッドを描いた画家といえば、ウィリアム・アドルフ・ブグローを置いて他には語れません。

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    フランスの画家、ウィリアム・アドルフ・ブグロー(1825-1905)による1886年の作品「L'Amour vainqueur」

    ブグローの画風は新古典主義の流れを汲む伝統的なものですが、官能的な裸婦や可憐な天使など、その甘美な画風は現在も人気が高く、多くの人に親しまれています。

    ちなみに上の3つの絵画はいずれも「愛の勝利」「勝利のアモル」等と訳される、同じテーマを描いた作品です。
    弓矢を誇らしげに掲げている点も共通しています。
    同じテーマを描いても作者によってこれほど雰囲気が違うというところが面白いですね。


    【彫像】

    可愛らしいキューピッドを描く画家の代表がブグローであるなら、可愛らしいキューピッド像を作る彫刻家の代表はベルテル・トーヴァルセンと言えるでしょう。

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    デンマークの彫刻家、ベルテル・トーヴァルセン(1770-1844)による1826年頃の作品「Cupid with his bow」

    トーヴァルセンは神話を題材とした大理石像を多く手掛けた彫刻家のひとり。
    彼の作品は肉体の柔らかさが非常に上手く表現されており、慈愛に満ちた雰囲気を醸しています。

    年齢の違う複数のクピド像がありますが、どれも弓矢を構えてはおらず、たたずんでいるポーズがほとんどです。
    プシュケに恋わずらいしたときのシーンかもしれません。

    cupid_triumphant_thorvaldsens_museum.jpg

    この彫像も同じくトーヴァルセンによる1814年の作品「Den triumferende Amor」
    訳は「勝利のアモル」となり、上でご紹介した絵画3作品と同じテーマです。

    どうやらこのテーマは古い芸術作品では比較的ポピュラーなようですね。

    File:Cupid Triumphant - Thorvaldsens Museum - DSC08601.JPG
    ライセンス:パブリックドメイン


    【写真】

    bow_and_arrow01.jpg bow_and_arrow02.jpg

    昔から弓矢はモデル撮影の小道具としても定番でした。
    男の子に弓矢を持たせれば、それだけでキューピッドのイメージを形作ることができます。
    翼を背負わせればさらにイメージに近付きますが、それだと仮装になってしまうので、写真作品としてはこのほうが良いのでしょう。

    その昔、先が吸盤になっている弓矢のオモチャがありましたが、ほとんどが男の子向けでした。
    弓矢、銃、ロケットなど、男の子が「遠くへ飛ばす」という行為を好むのは、太古の昔から当たり前に備わった感情なのかもしれません。

    さてキューピッドを表現した芸術作品。
    画家ならブグロー、彫刻家ならトーヴァルセンときたら、写真家ならば誰でしょう?

    私はイギリスの写真家、オリバー・ヒルを思い出します。

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    イギリスの写真家、オリバー・ヒル(1887-1968)による1923年の作品「The Garden of Adonis」

    今から100年ほど前に撮影された、神話をモチーフとした幻想的な写真。
    カーリーヘアの10歳くらいの少年がキューピッドを演じています。


    【キューピッド今昔】

    eros_bow_musei_capitolini.jpg bow_and_arrow04.jpg

    左は古代ギリシアの彫刻家リュシッポス(紀元前390年頃)による、弓に弦を張るエロース(クピド)の像。
    これはイタリアのカピトリーノ美術館にあるレプリカですが、オリジナルが作られたのはなんと2300年以上も前です。

    File:Eros stringing his bow, Roman copy after Greek original by Lysippos, 2nd century AD, Capitoline Museums (12516239325).jpg
    クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

    そして右は詳細不明ですが、海辺で弓矢遊びをする少年。(矢は人に向けているのではないと思います)
    大昔のキューピッドと現代のキューピッドをこうして比べてみても、それほど大きな違いはありませんね。

    もともとは狩猟の道具や武器として発明された弓矢。
    この弓矢を愛の道具として少年に持たせたローマ神話の伝承は、多くの作家のインスピレーションを刺激し、数々の作品を生み出しました。

    手法による表現の違いはあれど、愛の神が人々の心に存在する限り、少年と弓矢の組み合わせはこれからも受け継がれていくのでしょう。
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    Greased pole

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    メキシコの画家、ダニエル・レサマ(1968- )による2005年の作品「Greased pole」

    ポールの上に乗っている女性はなぜ動物の耳のカチューシャを付けているのか?
    飛び降りている少年はなぜ全身を青く塗っているのか?
    皿を持った男女はなぜパンツを下ろしているのか?
    いやそれ以前に、そもそもこれは何の絵なのか?

    画像検索してまとめてご覧になるとわかりますが、ダニエル・レサマの作品はリアルなのかフィクションなのか混乱させるところがあります。
    シュールと言うほど非現実的な光景ではなく、それでいて実際にはあり得ないと思えるような、とにかく不思議な雰囲気の作品ばかり。

    Googleの画像検索で「Daniel Lezama」を検索

    作者のダニエル・レサマは1968年生まれのメキシコの画家。
    メキシコシティにあるサン・カルロス・アカデミーで視覚芸術を学び、1995年に画家としてデビューしました。

    2000年に「ルフィーノ・タマヨ・ビエンナーレ」にて優勝し、これまでに20回以上の個展を開き、60以上のグループ展に参加しています。
    彼の作品はニューヨークのエル・ムセオ美術館、ロンドンやメキシコの近代美術館などで公的にコレクションされています。

    彼の絵に登場する人物の多くは太っており、それがコミカルでもあるのですが、全体に漂うテーマは至ってシリアス。
    生と死と性にまつわる精神を見える形で、言い換えればわかりやすい方法で訴えかけています。

    このようなテーマで群衆を描くことは、西洋絵画ではよくあることです。
    しかし彼の作品にはそういった絵に付き物の色気や妖艶さがほとんどありません。
    作品によっては猟奇的であったり狂気を感じさせますが、いわゆるホラーではなく、どこかの村の奇妙な儀式を見せられているような感覚があります。

    daniel-lezama_groom.jpg

    こちらは2004年の作品で、タイトルは「Groom」
    Groomとは新郎のこと。
    新郎にしては幼過ぎますが、結婚式の余興でしょうか?
    なぜか年配の女性たちに逆さ吊りにされています。

    楽器を演奏する者やとんがり帽をかぶる者、舞い散る紙吹雪などがパーティーの盛り上がりを示していますが、床に散らばったトウモロコシの皮は何を意味しているのでしょうか?

    一見すると虐待かと思ってしまうような絵ですが、少年の表情が冷静なだけに考えさせられる作品です。


    彼の作品集はAmazonでも購入できます。
    Daniel Lezama: Árboles De Tamoanchan (Amazon.co.jp)
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    タグ: America  少年  ♂♀  イベント  絵画  ペイント 

    The Guest Room

    dorothea_tanning_theguestroom.jpg

    アメリカの女流芸術家、ドロテア・タニング(1910-2012)による1950年の作品「The Guest Room」

    卵の殻が散らばった薄暗い部屋の中、女性が球体関節人形と寝ている。
    ベッドの横には玉の付いた棒を持った怪しい頭巾男。
    手前では裸の少女が直立し、それを奇妙なマスクを被った異形の人間が眺めている。

    じつにシュールな光景ですね。
    ゲストルームとは来客用の寝室のことですが、こんな寝室だったら悪夢にうなされてしまいそう。

    作者のドロテア・タニングは、シュルレアリスムを主とした画家、版画家、彫刻家、作家。
    シュルレアリスムの代表的な画家であるドイツ人画家、マックス・エルンストの妻でもあります。

    シュルレアリスムとは芸術の形態や主張のひとつで、日本語では「超現実主義」と訳されます。
    日本ではシュールという言葉は「現実離れ」という意味で使われることが多いのですが、元々は現実から完全に隔離された非現実を表現しているのではなく、無意識や集団の意識、夢、偶然などを重視していると言われています。

    シュールであると言われている絵画や写真がなんとなく不安を感じさせるのは、現実外だからではなく意識外だからかもしれませんね。
    こういう絵にはあまり説明はいらないものです。

    ドロテア・タニングはイリノイ州のゲイルズバーグで生まれ、地元のノックス大学で絵を学びました。
    1941年にニューヨークに移り住み、1942年にドイツから亡命してきたマックス・エルンストと出会い、結婚。
    1956年にフランスに移住し、ふたりで絵の仕事を始めました。

    夫のマックス・エルンストが1976年に他界し、彼女は数年後にアメリカに帰郷。
    その後は回顧録や詩集などを発表し、2002年と2005年には文学界から最優秀賞に選ばれています。

    2012年1月31日、彼女はニューヨークの自宅で101歳で亡くなりました。
    二度目の詩集を出版したばかりでした。

    彼女の作品は日本ではあまり知られていませんが、1984年に東京渋谷のギャラリー「アートスペース美蕾樹(ミラージュ)」で紹介されたのが最初とも言われています。


    【Dorothea Tanning】
    https://www.dorotheatanning.org
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    タグ: America  少女  ♂♀  絵画  彫像  眠り 

    Les joueurs d’aulos en Arcadie

    isambert-les_joueurs_daulos_en_arcadie.jpg

    フランスの画家、アルフォンス・イザンバート(1818-1870)による1847年の作品「Les joueurs d’aulos en Arcadie」

    タイトルは日本語に訳すと「アルカディアのアウロス奏者」となります。
    「アルカディア」とはギリシャのペロポネソス地方を構成する行政区のひとつで、古代より理想郷として伝承され多くの絵画に描かれてきました。

    そして「アウロス」とはこの絵の少女が吹いている楽器のことで、オーボエの基となった管楽器とされています。
    共鳴菅が根元から二本に分かれており、通常は左右の手で操作します。

    この絵では左の少年が演奏を手伝ってあげていますね。ふたりは恋人同士でしょうか?
    少年は手元ではなく少女の横顔を眺めています。

    古代ギリシアではアウロスは様々な行事で演奏されていました。
    しかしその奏者は主に奴隷や売春婦だったそうです。
    この子たちがそのような身分であるとすると、練習する光景にも複雑な思いが見えてきます。

    作者のイザンバートはギリシア神話を題材に歴史的な絵を描いた画家。
    彼の描く人物はギリシア彫刻のモデルを理想化したもので、とても質素で滑らかな体形をしています。

    写真のようなリアルさではなく、独自のデフォルメにより物語的に表現された彼の作品。
    まさに古代の理想郷を描くのに相応しい画風ですね。
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    タグ: Europa  少年  少女  ♂♀  絵画 

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    RUKA

    Author:RUKA


    当ブログは子供を表現した世界の絵画、彫像、写真作品をご紹介しています。
    天使に見立てているので必然的に裸の作品が多くなりますが、すべてアートまたは家庭的な生活記録に限定しています。

    子供は本来この世界における夢であり希望であり、その姿は大人にとってノスタルジーや心の潤い、癒しの対象でもあります。

    古くから子供の姿は愛すべきものとして認識され、絵画や彫像、写真等で様々に表現されてきました。天使のイメージもそのひとつです。
    そして各家庭でも、我が子への愛情ある記録(写真撮影)が数多くなされています。

    当ブログではそれら子供や天使をテーマにしたアート作品と、写真共有サイトFlickrで一般公開されている子供写真をご紹介しています。(できるだけ天使の姿に近いものを選んでいます)

    ふと訪れては日々の疲れを癒す天使の園・・・そんな憩いの場としてお使いいただければ幸いです。

    画像の著作者は私を含め様々ですが、著作権的に問題のない方法で掲載しています。
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    著者について...
    名前:RUKA (Rukachas)
    国籍:日本
    出身:埼玉(生まれは宮城)
    性別:男性
    年齢:あっという間の半世紀
    インターネット歴:20年

    20代の頃に仕事で幼稚園に出向いたのを機に街で子供の笑顔写真を撮り続ける。 1999年に「The Light of Smile 笑顔の灯り」という子供の笑顔をテーマにしたサイトを開設。 サイト終了後はこのブログで世界の天使像や世界の子供写真を紹介している。 6人の甥と姪の伯父さんでもある。

    メールアドレス: ruka_rukachas@ybb.ne.jp
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